【買わね買わねぐていいんだ。】3話「落ちこぼれからの出発」

第一章「ばかばっつ」な末っ子

◆落ちこぼれからの出発

小さい頃は内向的な性格でしたが、いろいろな習い事をするうちに人見知りもなくなり、中学へ入る頃にはすっかりませた子に。(笑)。水泳教室で塩素の入ったプールに入っていたために髪の毛は茶色くなり、当時流行っていたルーズソックスも履いて、すっかり‘‘コギャル‘‘になっていました。
 学校では全く勉強せず、成績は常にビリ争い。日本史のテストでも、回答欄に聖徳太子が2度も3度も出てきて「どれか一つは当たるんじゃない」といった具合でした。
 そんな状態のまま3年生に進学し、さすがに両親が「このままでは高校にも入れないかもしれない!」と焦りだしたのです。しかし今から塾に通ったところで、中学1年生レベルさえわからない私は到底授業についていけるわけがありません。結局、3年生の1年間家庭教師をつけてもらうことになりました。

 このときに家庭教師として出会ったのが、当時大学生だったみちこさん。彼女は一番最初に私にこう言いました。
「私がここに来たのは意味がある。家庭教師にきてもらう子にはふたつあるんだ、きっと。もっと頭がよくなりたいと思って頼む人。もうひとつは、本当にどうしようもなく勉強ができないから、勉強を習うために頼む人。このどっちかだと思うの」
 この言葉を聞いたとき、私は心の底から「なるほどなぁ」とおもいました。直接「バカ」だと言われてはいないけれど(笑)、私は間違いなく後者です。でも周りのみんなは、もっともっと頭が良くなりたいと思って勉強しているんだ。そこで初めて、周りと自分はものすごく差がついているということに気付きました。
 私の第一歩は、まず「勉強の仕方を教わること」。私は、恥ずかしいけれどみちこ先生に「私勉強のやり方わからねんだず」と言いました。
 そんな私に先生は「やり方はいっぱいある。たとえば書いて覚える人、心の中で読んで憶える人、部屋中に書いたものを貼って見て覚える人、言葉を録音して聞いて覚える人。その人に合った勉強が必ずあるから、いろいろやってみて」と教えてくれました。
 どうやるのが自分に合うのかわからなかった私は、「とにかく書いて覚えよう」と決めて、ノートを買ってきました。

皆さん驚かれると思いますが、そのときの私はアルファベットが最後までわからないほど勉強ができなかったのです。まず先生と一緒に書いていったのですが、「ABCDEF・・・」とそこからが続きません。でもそのときに先生が横でアルファベットの歌を歌いながら、一緒に書いてくれました。
教えられながら書いていくうちに、「あれ?聞いたことあるぞ」と感じました。きっと習ったばかりの1年生のときには書けていたのでしょう。そこで「ああ、人間は絶対に忘れてしまうものなんだな」と実感したのです。
 このことは、後輩に仕事を教えたり、研修で講師をするようになった現在でも、いつも忘れないようにしています。「人間は必ず忘れてしまう」。だから教える側も、何回も何回もトレーニングをしてあげる必要がある。それがわかっていれば、仕事をなかなか憶えられない後輩にも、イライラすることなく、根気強く教えることができます。
「ABCDEF・・・」のあとの「G」が出てこない私に、何度も何度も歌いながら教えてくれたみちこ先生からは、勉強だけでなく、こういったことも教えてもらいました。