はじめに
ー「ひとりコンビニ」を達成した日
ある年のゴールデンウイークのことでした。
その日は日本全国が大型連休の熱気に湧き上がっていました。その頃の私は入社して数年が経ち、仕事が面白くてしょうがない時期。ですからゴールデンウィークとあって朝から気合十分でした。
朝早い時間に山形を出発した新幹線に乗り込んだ私は、すぐにワゴンサービスに回ります。
客室は満席で、立っているお客様も20人~30人はいらしたでしょうか。通常、ゴールデンウィークだと「乗車率120パーセント」というようなことがニュースで流れたりしますが、この日はどうにかワゴンが通ることができるぐらいの混み具合でした。
ゴールデンウィークにふさわしく、窓の外は見事な快晴。これから行楽に向かう楽しさで新幹線全体がわくわくとした雰囲気に包まれていました。
たくさんのお客様がいらっしゃるなか、なかなかワゴンを進めていくことができません。ですが車内には、もしかしたら何か飲みたいお客さまがいらっしゃるかもしれない・・・・。
お腹を空かせてお弁当を待っているお客様がいらっしゃるかもしれない・・・・。
会社から「混雑しても、あきらめないで回るように」といわれていることもありますが、お客様に少しでも楽しい時間を過ごしていただこうと、声をお掛けしながら車内に入っていきました。
「少しだけ失礼します、車内販売にお伺いしました。お弁当やビール、おつまみはいかがでしょうか」
こう声をお掛けしながら車内へと入っていくと、お客さまから次々にお声をかけていただきます。
「ビールはありますか?」
「お土産ってどんなものがあるの」
一度そうやってお声をかけていただくと、周りのお客さまも「ワゴンが来た」と気づき、またさらにお声を掛けていただけます。
行楽シーズンのためか、ご家族や旅行グループなどのお客さまがたくさんいらっしゃいます。小さなお子さまにはお菓子がいいんじゃないかと、ワゴンの一番前に並べたスナック類も、「あっ、お母さんこれ買って!」と大好評。お父さんの膝の上に抱っこされた男の子が、楽しそうにお菓子を眺めていたことも覚えています。
「これだけの盛況なら、きっとお弁当もたくさん売れるだろう」
そう読んだ私は、いつも米沢駅から乗せてもらう山形名物の牛肉弁当も、電話で駅に連絡し、多めに積んでもらうことにしました。
コーヒーを淹れたりワゴンに追加の商品を積み込むデッキスペースの近くも、いつもよりたくさんの人で溢れています。立っていたお客さまからも「冷たい飲み物ありますか?」などとお声を掛けていただき、積むそばから売れていくといった具合でした。
一度ワゴンでの販売を終了したあとは手持ちで商品を持ってお届けに上がりました。
私の読み通り、お弁当やお土産などは飛ぶように売れ、両手に袋を抱えながら、何度も往復したことを覚えています。
その日は、山形と東京を一往復半するスケジュールになっていました。山形から東京に遊びに行くお客さまも、東京から帰省するお客さまもいらっしゃったり、上り下りどちらも大変な混みよう。
下りの新幹線では、規制のお土産にと、東京みやげの東京バナナや横浜崎陽軒のシュウマイなどが良く売れていました。帰省するらしいご家族の荷物を確認して、お土産をお持ちでないようなお客さまには「お土産に東京名物はいかがですか?」とお声をお掛けしていきます。新幹線の中でお土産が売っていることはご存知なかったお客さまから、追加の注文をいただくこともありました。
目の回るよな忙しさのなかで必死になって回りながら、頭のどこかでこんな風に考えていたことを憶えています。
「ゴールデンウィークとはいえ、この売れ行きのよさはすごい!何だか今日はいつもと違う。すごいことになりそうな気がする・・・・」
身体はフル回転しながら、ふとよぎったそんな予感は、新幹線を降りたあとに現実のものとなったのです。
目まぐるしい一日が終わり、列車を降りると、事務所での売上の納金を行います。納金の作業は、それぞれ