【買わねぐていいんだ。】23話 いつも自分にリスクを課す

第四章 私はただの物売りじゃない

いつも自分にリスクを課す

ワインで売上一番を取った頃から、私はずっと「何かもう一品」のリスクを自分に課すようにしています。
 その日の客層を見極めて、最適な品ぞろえをワゴンに揃えるのはもちろんのこと、なかなか売れにくい商品をあえて持っていくのです。多くの販売員は、手持ちで回るとしても、アイスクリームなどの売れ筋商品を持って歩くのがほとんど。ですが、あえてほかの販売員がチャレンジしない商品を、私は持っていきます。
 その日によって持っていくものは違いますが、ぶどうやラフランスといった季節の果物、さくらんぼカレーといった変わり種など、ほかの販売員が敬遠するものを進んで選びます。
これを持って帰ってきたら恥ずかしい。周りの販売員からも「なんで売れないもの持っていくんだ」っていわれてしまう・・・・。そういったリスクを常に持つことで、自分のやる気を奮い起こしているわけです。
 ですから、何度かワゴンで回り、最後に、何か一品だけを手持ちで持って回る。そのときに「たぶんダメだべなあ」という弱い心は絶対にありません。持っていくものはだいたいが売れ筋商品ではなかったり、特殊なもののことが多いので、「買ってもらわなくて当然。声をお掛けしても断られて当然」と考えています。ですが、そこから少しでも多く興味を持ってもらえるかどうかは、私次第だと思うのです。
 まず最初は、もちろんワゴンでお客さまのもとへ伺います。「三時間半、お客さまとご一緒しています」とはいえ、ひとりひとりのお客さまの視界に私が入るのは、ほんの一瞬のこと。何回か往復したとしても、きっとひとり当たり合計で1分にも満たないでしょう。
 さまざまなお客さまとの出会いがありますが、もちろんすべてのお客さまと接することができるわけではありません。私の存在に気付いてもらえることもないまま、お別れしてしまうことのほうが多いのです。
 そんななかで、「あともう一回でも、お客さまとお話しするチャンスを得たい」という気持ちを持って、最後にもう一品持ってまわります。もちろん、少しでも会社に対するリスクをクリアしたいという気持ちもあります。
 しかし、何よりも思うことは、「もう一回、回ることで少しでもお客さまとの出会いを増やしたいということなのです。