第四章 私はただの物売りじゃない
◆コンプレックスの山形弁を味方に!
こういったことが多くなるうちに、
(方言を隠さないほうが、自分らしい接客ができるんじゃないか?)
と考えるようになりました。
会社のマニュアルでは、とくに「標準語で接客するように」といった決まりはありません。それならばいくら訛っていても構わないだろうと、今度は積極的に方言を使うようにしたのです。
チーフインストラクターを務める私にとって、方言を使うことは、もちろんマニュアルの基本をマスターしたうえでの応用。後輩たちに仕事を教えることも、基本があってのことです。そのうえで自然に出てくる訛りを使うことで、よりお客さまと身近になれる、お客さまの色に染まりやすくなる、と思うのです。ですからマニュアルを教える後輩に、私はこう説明します。
「私はね、方言を使うと、お客さまとすごく身近になれると感じているから、私は使っているよ。規定で方言を使っていけないとは決まっていないから。方言で自分らしさが出せるなら、どんどん使えばいいと思う」
人にはそれぞれ「私はこうなりたい」とい理想の販売員像があるでしょう。
「私は標準語で、ビシッとした販売員を目指したい」
「私は自然な会話で、お客さまを和ませる接客をしたい」
そういったそれぞれの理想に沿うかたちで、方言を使うか使わないか判断すればいいのだと思っています。何よりも大事なのは、その人らしさを生かすこと。私にとって方言は、自分らしくいるための必需品なのです。
あるとき、秋田出身の大学生がアルバイトで入りました。彼女もとてもいい感じの訛り具合で、積極的に方言を使うようになりました。それによってお客さまとの会話も弾んでいるようです。
「なんだ、どこの人や?」
「私は秋田なんだ」
「なんで秋田の子がここにいるのー?」
確かに、山形新幹線に秋田弁の子が働いていると、ちょっと違和感を覚えるかもしれません。しかし、その驚きを糸口にして、お客さまとの会話が始まることもあるのです。
また、山形弁を使って喜ばれる旅行のお客さまには、つい嬉しくなって山形情報をお教えすることもあります。「ありがとうは山形弁で『おしおしな』っていうんですよ」といったことや、大河ドラマ『天地人』で有名になった場所、テレビで特集されていた山形の特色など。ちょっと仕入れた情報を面白おかしくお話しすることで、旅行気分を盛り上げるお手伝いができるようです。
このように、方言や訛りなどコンプレックスになりがちなものを、上手に見方につける。それがマニュアルを超えたサービスにつながるのではと思っています。