【買わねぐていいんだ。】21話 無理して標準語で話していても

第四章 私はただの物売りじゃない

◆無理して標準語で話していても

山形生まれ山形育ちの私にとって、山形弁はずっと「標準語」でした。販売員の仕事を始めるまでは恥ずかしいと思ったこともなかったのですが、研修のときに標準語でピシッと接客する先輩を見て「先輩はかっけえずー。やっぱ訛ってたらかっけぐなぐね」と感じたのです。それからしばらくは、山形弁がコンプレックスとなってしまいました。
 しかし、隠していても自然に出てしまうというのが訛りというもの。お客さまがちょっとしたイントネーションに気付かれて「ん?お姉さんどこの人なの?」と聞かれることもありました。最初はそう聞かれることが嫌で嫌で、どうにか訛りがでないようにと、無理して標準語で話していました。
 きっとこのころの私は、とても気取った人のように見えていたに違いありません。ちょっとでも都会っぽく見られるように、マニュアルに沿うように・・・・。そんなことばかり気にかけていたからです。きっとお客さまも「なんだかこの人、ツンケンしてるな」と思われたことでしょう。
 ところが、長らく山形弁を標準語だと思っていた私にとって、訛っていないつもりで話していても、言葉がお客さまに通じないこともしばしば。コーヒーをご注文いただいたときに、
「あったかいのとつったいの、どっちがいいですか?」と伺うと、
「『つったい』って何?」
 と聞かれてしまい、そのときにはじめて「ああ、『つったい』って方言なんだ」と気づいたこともありました。ちなみに「つったい」は「つめたい」という意味。「んだぎゃぁ」や「にゃあ」といった訛りを使うことも、自分のなかでは普通のことだと思っていたのです。
 また、そうやってポロリと出てしまった方言をとても喜んでくださるお客さまもいらっしゃいました。山形に住んでいるお客さまからは「ああ、山形に帰ってきた気がする」といっていただいたり、旅行でいらしたお客さまからは「山形の人なの?じゃあ山形でおいしいおそば屋さん教えて」といったようなことを聞かれることもあります。
 山形出身だということから話が弾み、新幹線を降りる頃にはすっかりお友達、といった感じになることもありました。特にお年寄りや旅行で山形にやってくるお客さまなどから喜ばれ、より親しみを持っていただけるようでした。