【買わねぐていいんだ。】14話「新人時代のびっくり失敗談」

第3章 買ってあげたいと思われる人になりなさい

◆新人時代のびっくり失敗談

新人時代には、いま思い出しても赤面してしまうような失敗をたくさんしでかしていました。本当はそっと心のなかにしまっておきたいけれど、特別にいくつかお話ししましょう。
販売員には、膀胱炎になってしまう子がとても多くいます。というのも、新幹線はトイレが二両おきにしかなく、お客さまと一緒に使わせていただくため、トイレが込み合っているとなかなか入れないこともあるからです。
その日もなかなか空いているトイレがなく、やっとは入れたときには思わず「ホッ」。しかしその日はとても忙しく、「やばい、急がないと!今日は忙しいんだった!」と慌てて手を洗って業務に戻りました。
お客さまの後ろからお声がけして、後ろ姿を見せながら車両を出ていくかたちで、11号車から17号車まで販売をしていきました。まだその頃は新人で、後ろ向きでワゴンを引いていく「バック販売」もやっていませんでした。そして新幹線の端まで来たとき、何とトイレからでてスカートを下していなかったことに気付いたのです!
制服の上にはおるエプロンでぎりぎり隠れていたのですが、新幹線の端から端までをパンツ丸出しで歩いたことになります。あまりの恥ずかしさに、「何で誰も教えてくれないの!?」とお客さまを恨みました。しかし、もう一度販売に回らなくてはなりません。明らかにお客さまたちの目が冷ややかで、この時ばかりは「誰も私に声をかけないで・・・・」と思ったものでした。

お客さまに驚かれたことといえばこんなこともありました。
 山形新幹線はミニ新幹線と言われるだけあり、ホームと車両のあいだが大きくあいています。東京駅ではお客さまがご乗車される際にステップが自動で出るようになっているのですが、山形駅ではそのステップは閉じたまま。
冬のある日、雪が降って滑るホームで、ワゴンを乗せるときに靴を線路におとしてしまったのです。これは販売員として絶対にやってはいけないミス。下手をすれは新幹線を止めてしまい、多くのお客さまにご迷惑をお掛けしてしまうことになります。
「どうしようどうしよう」と慌てながらも、発車時刻となった新幹線に勢いで乗りました。
 靴はホームにいた輸送担当者が取ってくれるはずですが、問題は私・・・・・。往復7~8時間ものあいだの車内販売を、片方裸足でこなせるはずもありません。車掌と「どうすっぺー」となりました。そこで思いついたのが車両故障などの異常時に車掌が外に出るために履く黄色い長靴。もちろん作業をする男性用なので私にはブカブカです。しかし背に腹は代えられないということで、その日の販売は長靴を履いて行うことになりました。
お客さまからは「いったいどうしたの!?」と驚かれましたが、長靴のおかげで無事に業務をこなすことができました。東京駅のホームではさらに注目の的となり、周りのお客さまは足元に視線を向けて笑っていました。

 自分のミスで、お客さまに大変なご迷惑をお掛けしてしまったこともあります。
 山形新幹線の車内販売で一番人気のお弁当、牛肉の弁当。大変人気があり、新幹線に乗られる前に予約をされる方もいらっしゃるほどです。この日もあるお客さまから、牛肉弁当をお食事用とお土産用に4つほどご予約をいただいていました。
できたてのお弁当を米沢駅で受け取り、車内販売を始めます。しかし、ご予約をいただいていたにも関わらず、すっかり忘れてしまった私はすべての牛肉弁当を売りきってしまったのです。ご予約をいただいていたお客さまからは、
「楽しみにしていたのに!」
とお𠮟りをいただきました。
 ただ新幹線に乗っていて、たまたまお弁当を買おうと思ったというのとは違い、新幹線に乗る前から牛肉弁当を楽しみにされていたのですから、お叱りはもっとものこと。楽しい旅の時間をご提供しなくてはならないはずが、私のミスのせいで台無しにしてしまった・・・・・。
 激しい後悔と申し訳なさで、何度も何度もお客さまにお詫びをしました。ワゴンで前を通るたびにお客さまに「先ほどは申し訳ありませんでした」とお詫びをし、販売が終わってからも、もう一度改めてお詫びに上がりました。
 しかし、お客さまは決して話をしてはくださいません。本当に楽しみにされていて、だからこそのお怒りだったのだと思います。
 悲しくて悲しくて、「もうこんな思いは絶対にしたくない。もうこんな失敗は絶対にしない」と心から思いました。この日は、家へ帰る車の中でも車の運転ができなくなるほど泣いたことを憶えています。

 ほかにも、思わず笑ってしまうようなものから、本当にもう二度としてはいけないと反省したものまで、たくさんの失敗をしてきました。そのひとつひとつが良い思い出になっていたり、私のなかで大事な教訓になったりしています。
 また、チーフインストラクターになった現在、後輩を指導する際に自分の失敗談を交えながら教えることで、より具体的にアドバイスができるということもあります。先ほどお話した靴の話でも、ただ「ホームと電車が大きくあいているから気をつけるように」というよりも、体験談を話す方がイメージも残りやすいでしょう。
新人時代に抱える悩みや失敗は共通していることが多いもの。「私もこうだったんだよ」と話すことで、自分の教訓がさらに後輩へと受け継がれていってくれればと思います。
もちろんいまでも失敗をしてしまうことはあります。ですが、そういった失敗を恐れていては、成長はできません。たくさんの経験して、お客さまのお叱りやお褒めの言葉をいただきながら、これからも成長していければと考えています。