【買わねぐていいんだ。】12話「ワインを売ってフランスへ!」

第三章 買ってあげたいと思われる人になりなさい

◆ワインを売ってフランスへ

販売員としての仕事の楽しさを知った私は、すぐに「乗りたい乗りたい病」にかかってしまいました。新幹線に乗る毎日が楽しくて楽しくて、「誰かお腹が痛くて休む人いませんか?私、代わりに乗りますよ!」といつも上司にいっていたほど。
 そして、入社して3~4ヵ月経った頃、社内で「ワインを一番売った人に、フランス旅行をプレゼント」という企画が持ち上がりました。1年間かけて、ワインをどれだけたくさん売るか、全線区の販売員が競い合うのです。
 1本が400円の小瓶のワインは、やはり缶ビールや缶チューハイに比べるとなかなか売れにくい商品です。いつもは3本も積んでいればいいほうで、あまり買っていただけることはありません。それでも、
「それじゃあ、いっちょやってみるか」
フランスに行けるかもしれないし、ちょっとがんばってみようと、その日からワインを多めに積んで新幹線に乗るようになりました。
 しかし、それまでと同じようにやっていたのでは、たくさん売れることはありません。
そこで、ちょっと知恵をしぼってワゴンでの販売が終わった後に、今度はワインだけをカゴに入れて回ってみることにしました。
「失礼します。ワゴンサービスでございます。ただいまワインをお持ちしました。どうぞご利用ください」
 そうすると興味を持ったお客さまや「何でワインだけ持ってきたんだろう?」と思ったお客様が数人、パッと顔を上げてくださいます。そこでひとりひとりのお客さまに「ワインいかがですか?」とお声掛けしていくのです。
ただのワゴンサービスと違うぞ、と感じたお客さまは「ワイン?そんなにおいしいの?有名なの?」と聞いてくださいます。「このワインおいしいんですよ」などとお応えしていくうちに、車両を出る頃には持っていたワインがすべて売れている・・・といった具合です。
このようにして、普通の車内販売の商品とともに、ワインを常に持って歩くというのが癖になっていきました。
そんなある日、突然支店長から呼び出しがかかりました。「何か怒られるのかな?とビクビクしながら行くと、
「久美子おめでとう!1位になったんだよ!」
 といわれ、びっくりするほど褒められたのです。単純な私は、褒められるとその気になるタイプの典型。1位を取ったことよりも、支店長から褒められたことのほうが嬉しくて嬉しくてーーーーーー。
ワインを持って新幹線に乗るのが当たり前となっていたため、フランス旅行がかかっていることをすっかり忘れていたのですが、いつのまにか私は全線区で一番の売り上げを上げていたのです。
 こうして、フランス旅行がまさかの現実となりました。